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引退危機から柔道日本一、アテネ五輪王者・鈴木桂治の奇跡

【アスリート求道録】

 体重無差別で柔道日本一を争った4月29日の全日本選手権。本命不在の混戦を縫い、頂点に立ったのはアテネ五輪金メダリストの鈴木桂治(国士舘大教)だった。4年ぶりの優勝は、「自分がびっくり」と目を丸くするほどの“サプライズ”。次々と巨漢を投げ捨てた往時の華々しさはない代わり、年を重ねるとともに粘り気を増す柔道には容易に折れない腰の強さがあった。6月で31歳を迎えるベテランを変えたものは何だったのか。(森田景史)

 ■「昔の自分とは違う」

 本命は不在でも、最高峰の舞台に残ったのは、しかるべき2人だった。鈴木桂治が決勝で迎え撃つのは、昨年の100キロ級世界王者、穴井隆将(天理大職)。「王座奪還しか考えていない」と、2年ぶりの頂点に向けて目を血走らせる重量級の雄を前に、アテネ五輪覇者の背中ははかなげに映る。実際、鈴木自身が“斜陽の季節”を思わす言葉を口にしている。

 「投げて勝つのが理想。だけど、昔の自分とは全然違う。それは自分でも分かる」

 開始から1分過ぎ、消極的な試合運びに1回目の「指導」。鈴木は動かない。穴井の仕掛けに応じて投げを打ち返すカウンター狙い。がっぷりと左四つに組み、執拗(しつよう)に足をからめ、泥仕合も辞さない粘り気を体から散じる。自ら決めにいかず、鈴木はひたすら待ち続けた。その一瞬が2分半過ぎに訪れる。

 胸をせり出してきたのは穴井。正面切って十八番の左大外刈りだ。強烈な引きつけに鈴木の両足が浮き上がった次の瞬間、満座の客が驚嘆する…。

 ■弱い自分との格闘

 4年ぶりとなる鈴木の優勝には、珍しい記録がついてきた。過去62回の歴史をたどっても、「4年ぶり」の日本一は1963年の猪熊功だけ。9連覇の勝ちっぱなしで引退した山下泰裕は別格として、それほど復位は難しい。

 アテネ五輪覇者の4年間の歩みも、つづら折りの坂道を上る難行軍だった。2008年北京五輪でまさかの初戦敗退。現役続行の道を選んだものの、国内大会で勝てない。国際大会でも黒星続き。

 「もう勝てないのかな」「勝ち方を教えて」と報道陣の前でうなだれ、初戦負けした昨年の世界選手権では関係者に「このまま試合に出ないと引退しそう」と漏らしている。弱い自分との格闘が、この4年間の実相だった。

 五輪、世界選手権で計3度の頂点に立ち、鈴木が抱えてきたのは負けることへの恐怖心、年とともに理想の柔道からそれていく自身への羞恥心。軽やかな足のさばきで巨漢を転がした往時の残像に、何度も苦しんだ。6月で31歳。トップ選手としてはすでに“老境”に差し掛かる鈴木を変えたものは何か。鈴木の練習を間近で見てきた国士舘大の山内直人監督は、鈴木が迷走を重ねた時期にこんな言葉を掛けている。

 「誰もお前に格好いい勝ち方を期待してなんかいない。もう、我慢しかないんだよ」

 全日本柔道連盟の強化指定選手から外れ、それでも現役を続けた鈴木。今大会に向けて汗を流す背中に、山内氏は変化を見たという。捨て身ともいえる開き直り、負けを後に引きずらないずぶとさ。以前より線が太くなった、と。

 ■ベテランの変節

 柔道の質も変わった。時には受け太刀に徹し、相手の出足を逆手に取った返し技で勝つのもいとわない。「6分の間ならどこで勝ってもいい。最初の3、4分で攻められても、我慢して最後に勝てば」。4回戦の七戸龍(九州電力)戦、準決勝の本郷光道(フォーリーフジャパン)戦は、鈴木の変節を物語る“会心譜”ともいえそう。

 七戸戦では相手の長いリーチに難渋した。頭越しに奥襟をたたかれ、遠くから飛んでくる足技に何度も揺らぐ。しかし、間合いをつかんだ中盤以降は攻めに転じ、前半の“負債”を完済。旗判定で主審、副審とも自身になびかせ3-0の完勝である。

 「妥協したら楽だろうな、という思いは試合中でもよぎる。そこで意地を見せよう、我慢しよう、と。それがプラスされたのが今日の自分」

 本郷戦は相手の大技を誘い、小外刈りで切り返し。倒れ込む相手に、けさ固めでとどめを刺した。「僕の実力じゃない部分もある。相手の攻めが先ですから」。言葉では恥じ入るものの、鈴木の顔色はそよとも動かない。これが今の自分-と、すがすがしいほどに開き直っている。

 ■それでも「崖っぷち」

 再び冒頭のシーン。渾身の大外刈りに打って出た穴井に対し、鈴木がスルリと足を抜く。穴井の体を強くあおり、両者の体は折り重なって畳の上に。上にあるのは鈴木の体だ。意表の大外返し。驚喜する満座の客に向けて、鈴木が何度もこぶしを突き上げる。主審が「一本」、副審の1人が「技あり」と割れたが、「技の人」から一皮むけた“老兵”にとっては一世一代のフィニッシュブローだった。

 「全日本の優勝を何度も夢で見て、その度に目が覚めて。その繰り返し。今回も一瞬、夢じゃないかと」

 試合直後のインタビューで声を潤ませた鈴木は、分厚い手のひらで何度も目元をぬぐう。「夢のようです。それくらい自分でもびっくりしている」と、また涙声。「あいつが勝って泣いたの、見たことないね…」と感慨まじりにつぶやくのは山内氏。

 鈴木はまた、代表の座に戻ってきた。ただし、ロンドン五輪への切符となると、何の確約もない。100キロ超級代表の2席を分け合ったのは21歳の上川大樹(明大)。上川の初戦負けで今回の顔合わせはなかったが、直前の全日本選抜体重別選手権では一本負けしている。鈴木が自戒を込めて口にする「崖っぷち」の立場は変わらない。

 「来年、もう一度チャンスを頂くには勝ち続けるしかない」

 この日本一は、最後の五輪への号砲か。現役生活のわずかな延命か。進むも退くも、鈴木が自らの戦いで決めるしかない。
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