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<ビンラディン容疑者殺害>残るいくつかの「謎」を検証

 米国が「正義を達成した」と誇る国際テロ組織アルカイダの最高指導者ウサマ・ビンラディン容疑者の殺害には、いくつかの「謎」も残る。遺体をなぜ水葬したのか、容疑者本人と断定した鑑定に疑問はないのか、パキスタンの首都近郊で敢行した今回の作戦が本当に米単独で可能なのか--。専門家の分析などを基に検証した。【平地修、石原聖、朴鐘珠、真野森作、前田英司】

 ■米空母から海へ

 米国防総省高官によると、水葬は2日未明(米東部時間)、北アラビア海に展開する原子力空母カール・ビンソンの甲板で執り行われた。体を清めて白い布で包むなど約1時間かけて準備した後、遺体を海中に下ろしたという。AP通信は当局者の話として、水葬の理由を「遺体の引き取り手がないため」と伝えた。

 京都大大学院の小杉泰教授(イスラム学)は「イスラム社会では通常、死亡した翌日までにモスク(イスラム礼拝所)で祈りをささげて埋葬するのが慣例」と解説する。イスラムでは、人間は土から創られたとされ、死後は再び土に返すため必ず土葬する。水葬は、船上で死亡して遺体を保存できないなどの場合にしか認められない。

 地上で殺害されたビンラディン容疑者は、こうした例外ケースに当たらない。小杉教授は「葬儀は共同体の連帯義務で、引き取り手がない場合でもモスクに遺体を運べば埋葬してくれる」と説明し、「米当局の行為には遺体が奪回されるのを避けるため海に『捨てた』との疑念を持たれる恐れがある」と指摘した。

 ■「99.9%」一致

 米当局は、遺体から検出したDNAとビンラディン容疑者の親類のDNAを調べた結果、「99.9%」一致したと説明。さらに、殺害現場で米軍特殊部隊が撮ったビンラディン容疑者の遺体の顔を照合した結果も「95%」合致したとして、本人と断定した。

 筑波大大学院の本田克也教授(法医学)は「一般的に確実に本人と断定するには最低限、親子関係でのDNA鑑定が必要だ」と説明する。さらに、鑑定対象がビンラディン容疑者のような重要人物であれば「血痕など本人の試料で『同定』しているはずだ」と言う。

 DNA鑑定の結果が判明するには少なくとも半日程度はかかる。米当局の発表では、急襲作戦でビンラディン容疑者を殺害し、その日中に早々と「本人」と断定した。本田教授は「1日で鑑定を終えること自体は不可能ではない」としながらも、「『同定』を確実にするには同じ鑑定者、鑑定機関で2、3回は確認すべきだ」と指摘。「本人と言えるほど十分な鑑定が行われたのだろうか」と話した。

 ■事前通告した?

 米当局は今回の作戦実施について、パキスタン政府には事後報告したと説明している。しかし、現場はイスラマバード近郊のパキスタン軍施設が集まる町だ。現地に詳しい外交筋は「他国のヘリが夜中に軍事作戦を始めて反応しないはずはない。(パキスタン軍が静観したのは)直前に米側から通告があったからだろう」とみる。

 これに対し、大阪大の山根聡教授(南アジア・イスラム文化)は、「パキスタン軍の一部はビンラディン容疑者の潜伏に気づいていたはずだ」と指摘。米側がパキスタン当局から容疑者に情報が漏れるのを警戒して「事後報告か、何か別の作戦を実施すると説明していた可能性はある」と分析した。

 米国が他国で遂行した今回の作戦について、現地情勢に詳しい田中浩一郎・日本エネルギー経済研究所理事は「事後通告なら明らかな主権侵害であり、事前でもパキスタンの同意がなければ主権侵害だ」と指摘する。ただ、国内の反発を考えればパキスタンには同意できない事情もあり、「(作戦が実施されたこと自体には)驚かない」との見方を示した。
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