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子供たちだけで眠る室内で何が…下関の女児殺害事件

【衝撃事件の核心】

「助けて!」-。未明のアパートに幼いきょうだいの叫び声が響いた。これに気付いた隣人が、子供たちを助け出し、室内にくすぶっていた火を消し止めた。だが、姿が見えなくなっていた妹は、アパートのすぐそばにある側溝で発見された。意識がなく、搬送先の病院で死亡が確認された。山口県下関市で昨年11月28日に起こった女児殺害事件。母親の外出中、子供たちだけで眠っていた室内で、いったい何があったの
か…。山口県警の懸命の捜査が続いている。

■「妹がいない…」

 殺害されたのは、下関市彦島福浦町、パチンコ店従業員、松原直子さんの次女、莉音(りお)ちゃん=当時(6)。小学3年の長男、小学2年の長女との3人きょうだいの末っ子。松原さんは昼間のパチンコ店だけでなく、夜も飲食店へ働きに出ることが多かったという。アパートの住人らの話から当時の様子を振り返ると-。

 昨年11月28日午前5時半ごろ、アパートの2階、松原さん方のベランダから「助けて」という声がしているのに、隣室の夫婦が気付き、男性が仕切り越しに隣をのぞいてみると、寝間着姿の長男と長女が「助けて下さい」と訴えてきたため、ベランダづたいに2人を救助した。

 男性が事情を尋ねると、「煙が出ているんです。お母さんは仕事でいません」と答えたため、松原さん方の玄関に回った。かぎはかかっておらず、扉を開けたところ、煙がもくもくと立ち込め、玄関内の靴や内壁が燃えていた。このため、男性は自室の風呂の残り湯をかけたり、足で踏んだりして火を消し止めた。

 火事自体は大したものではなかったが、今度は、「妹がいない」と2人。玄関側はまだ煙に包まれていたため、男性はベランダ側から松原さん方に入り、「おーい」と叫んでみたが、応答はなかった。その後、男性の妻の119番通報などでやってきた消防隊員や警察官らが莉音ちゃんの捜索を始めた。

 そこへ、松原さんが外出から帰宅。「何で玄関が燃えているの」と驚いていたが、莉音ちゃんの行方が分からないと聞かされ、血相を変えて下へ降り、娘を捜し始めた。

 しばらくして、消防隊員がアパートのすぐそばにある側溝で、莉音ちゃんがあおむけに倒れているのを発見。上半身に衣服は着けておらず、靴も履いていなかったという。

 莉音ちゃんは病院に運ばれたが、それから約1時間半後に死亡を確認。山口県警の調べで、死因は首の圧迫による窒息、亡くなったのは午前4時~同5時25分の間と判明した。

■静かな住宅街

 事件が起こった「彦島」は、本州のほぼ最西端に当たり、関門海峡をはさんで九州とは目と鼻の先。かつては、源平合戦で平家最後の陣地となったり、幕末に危うく列強の租借地にされかけるなど、歴史の舞台にはたびたび登場する。

 名前の通り「島」ではあるが、今は道路橋など3つのルートで本土と結ばれているため陸続きという印象が強い。11平方キロメートルに約3万人が住んでいるという状況からも、離島の面影はほとんどない。

 島内には、全国最大のフグ流通拠点として知られる南(は)風(え)泊(どまり)市場があるほか、造船所や化学産業などの工場が立ち並ぶ。

 事件が起こったアパートも、以前は企業の社宅だった。その企業の撤退後は、所有者が変わって一般向けの集合住宅になった。松原さん一家は、昨年9月に島内の別の所から引っ越してきたばかりだった。

 一帯は、幹線道路とは1本の細い道でつながっているだけの、雑木林に囲まれた静かな住宅街。莉音ちゃんが見つかった側溝は、アパートの敷地と雑木林との境に設けられていた。

 ■「莉音ちゃんは天国へ行ってしまった」

 日曜早朝の出来事だっただけに、消防のサイレンやパトカーの音などで目覚め、異変を知った周辺住民も多かった。「眠っていたら消防車の音が聞こえてきたので、『近くで火事かな』と思っていた。そしたらこんな騒ぎになっていて…」と近くの主婦。

 莉音ちゃんが通う保育園も、この日は日曜保育のため、出勤していたスタッフはふだんより少なかった。報道陣からの取材で事件を知ったといい、園内は驚きと悲しみに包まれた。

 「とても明るい、元気のいい子。なぜこんなことに…」と、言葉を詰まらせる山本吉幸副園長。「0歳児のころから預かっていたので思い出がいっぱいある。上の2人もここの卒園児なので、家族ぐるみで知っていた。この近くから引っ越すときも、お母さんは『少し遠くなるけれど卒園するまでこちらにお世話になりたい』と言ってくれていたのに…」。

 事件の翌日、保育園ではお別れ会が開かれ、山本副園長が園児たちに「莉音ちゃんは高く遠い天国に行ってしまいました」と説明。保育室内に、莉音ちゃんのいすや描いた絵、愛用のクレヨンなどを置いた献花台を設け、莉音ちゃんが好きだったというピンク色のカーネーションを年長組の仲間たちが一輪ずつ手向たあと、園児や職員らで黙(もく)祷(とう)をささげ、莉音ちゃんの冥(めい)福(ふく)を祈ったという。

 「犯人が憎い…。早く捕まえてほしい」と山本副園長。同園では、3月末に莉音ちゃんが“卒園”するまで、保育室内に献花台を置き、花を供え続けることにしている。

 ■転居の背景にDV男の影

 松原さん一家の転居には、それまで同居していた男性からの暴力が背景にあったという。下関署には昨年9月中旬ごろ、松原さんから「暴力を受けている」と相談があった。山口地裁下関支部がDV防止法にもとづき、男性に対して接近禁止命令を出して以降は、相談がなくなったという。

 こうしたトラブルの存在や、アパート周辺の環境、室内に争ったり金品を奪ったりした形跡がなかったことなどから、県警は事件発生当初、犯人像について「現場を知っている者、顔見知り」との見方を示し、下関署も「松原さんの交友関係を含めて慎重に捜査している」と説明した。

 現在、捜査本部は連日、100人態勢で捜査している。「帽子をかぶった男を見た」「車が走り去った」などの目撃情報が寄せられるものの、有力な手掛かりは得られていないという。

 下関市教委は、彦島地区の小・中学校に対し、見回りの強化を指示。莉音ちゃんの兄と姉が通っていた小学校では事件以後、2学期終了の昨年12月24日まで集団下校の態勢を取り、帰宅する子供たちに教職員が付き添った。また、学校には2週間にわたってスクールカウンセラーが常駐し、児童の心理的なケアにも当たった。

 地区で子供たちの登下校を見守るボランティアの1人は「事件が解決しないと、子供たちも私たちも不安。私たちが声をかけることで、子供たちの不安を和らげてやりたい」と話していた。

 事件の発生から1カ月余り。悲しみと不安に包まれる静かな街に、平穏な日常はいつ戻るのだろうか。
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