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誤算が招いた明暗――2強決戦の舞台裏=箱根駅伝

3連覇を狙う東洋大をわずか21秒差で振り切った早大が18年ぶりの総合優勝を果たし、史上3校目の大学駅伝3冠達成で幕を閉じた第87回箱根駅伝(1月2日、3日)。

 しかし、その激しい優勝争いの裏側では、両校ともに大きな誤算を抱えていた――。

■のちの勝負を揺るがした、早大・1区大迫の起用
「出雲(駅伝)と全日本(大学駅伝)を走った佐々木寛文(2年)と志方文典(1年)の“飛車角”を欠いての戦いだった」と言う早大の渡辺康幸監督。
 志方は12月頭に右足甲の骨折が判明し、かすかな期待を持ってエントリーメンバーには入れたが、間に合わなかった。そして本番1週間前には、佐々木が座骨神経痛でギブアップ。チームは危機的な状況になった。
「当初は5区に佐々木を使い、志方を8区に置いて東洋大の千葉優(4年)を粉砕するつもりだったんです。気持ちが強い猪俣英希(4年)が9区で、三田裕介(3年)か中島賢士(4年)を10区にと思っていました。でも、その配置が崩れる危機感で、逆にチームがまとまり、層の厚さで勝てる要因になったと思います」

 こう話す渡辺監督が最後まで迷ったのが、1区と3区の起用だった。大迫傑(1年)と矢沢曜(3年)のどちらを1区に持っていくかだ。5区を猪俣に決めたが、そうなると東洋大の柏原竜二(3年)には4分負ける可能性がある。そのロスを4区までで埋めるにはどちらの方が効果的かと考えたのだ。

 結局、区間エントリー前日に選手に伝えたのは「1区大迫」だった。渡辺監督は「出雲と全日本もそうだったが、今回も区間配置でのひらめきがすごくさえた」と自画自賛する。独走になっても確実に走る2区の平賀翔太(2年)の力を最大限生かすには、1区で極力後ろとの差を開いて、1位で平賀につなげることが望ましい。2年前には矢沢が1区の19.5キロで後続を振り切って区間1位になったが、8位東洋大までには18秒差しかつけられなかった。

 もちろん矢沢もその当時より力は付けているが、11月下旬の上尾シティハーフマラソンで1時間01分47秒の日本ジュニア新記録を出している大迫の方が、自信を持ってスタートから行けるだろうと期待したのだ。その作戦はズバリと当たり、1区で2位の日大に54秒、8位東洋大には2分01秒差をつけた。

 東洋大の酒井俊幸監督は「1区の2分差が最後まで響いた。集団が中盤でもう少しペースを上げてくれて1分差くらいになっていたら違う展開になったはず」と悔しがる。

■山での戦い、東洋大に降りかかった大誤算
 その東洋大も誤算を抱えていた。2年続けてアンカーを走っていた高見諒(4年)が故障で使えず、前回2区の大津翔吾(4年)も12月上旬の時点では、他の選手と同じポイント練習がこなせず、何とか間に合った状態だったからだ。さらに5区の柏原も、夏場の練習を詰められていなかった上に、早大も5区で昨年のような大失速はしないと想定できた。
 その上で、4区までの早大とのタイム差は、2分が限度と想定していたのだ。結局2区以降は、ほぼ思った通りの走りをしたが、1区で先手を取られたのが響いて、4区終了時にはトップの早大に2分54秒差。柏原は予定通りに5区でトップに立ったが、早大には27秒差しかつけられなかった。

「柏原は今回はあれが精いっぱい。3区の設楽悠太(1年)と4区の宇野博之(3年)も、もう少しタイムを稼げたとは思うが、スピードがある早大に対しては、こちらがパーフェクトでないと勝てない。向こう(早大)は最初の5キロを14分30秒、10キロを29分ちょいで入ってくるから、それに対抗するには1キロ3分のペースを維持するだけの戦いでは駄目だと感じました」と酒井監督は言う。
 一方で早大・渡辺監督は、「柏原がいたからこそ、彼がいる東洋大に勝ちたいという思いでチャレンジできたと思う」と話す。

 5区で、柏原との差を27秒に抑えた早大・猪俣の走りは渡辺監督にとってはプラス、東洋大・酒井監督にとってはマイナスの誤算だったが、早大・高野寛基(4年)が復路6区を58分55秒で走ったことも、両者にとっては同じような誤算だった。
「高野は箱根初出場だが、早い段階から下りの準備ができていて、去年もスペシャリストの加藤創大がいなければ使っていた選手。スピードはないが、平坦になる箱根湯本からのたたき合いでは負けない自信があったから、59分30秒では行くと思っていた」と渡辺監督は言う。

 一方、東洋大・酒井監督は「(6区の)市川孝徳(2年)はラストに不安はあるが、この1年で成長しているから、区間配置に間違いはなかった。ただ早大の58分台は予想外。結局2日ともスタートで先手を取られてしまった」と振り返る。

■駅伝の鉄則を破った早大、守れなかった東洋大

早大・猪俣(左)は5区で、東洋大の“新・山の神”柏原にトップの座を譲るも、その差を27秒に抑えた【Photo:日本スポーツプレス協会代表撮影/アフロスポーツ】「往路が終わって(東洋大と)27秒差だったけど、東洋大の復路が良いという話と良くないという話の両方ささやかれていたから、優勝への自信は半々でした。だから、高野が湯本からつけてくれた36秒差は大きかったですね」

 こう話す渡辺監督は、7区の三田にも絶妙の走りをさせた。
「(7区を走る)東洋大の大津翔は状態が良くないと聞いていたし、三田は最初から突っ込ませないと彼の良い面が出ないから」と、駅伝でトップを走る鉄則である“ゆっくり入って後半上げる”という走りを無視して3キロを8分36秒で突っ込ませた。

 それに対して東洋大・酒井監督は、大津翔の状態を考えて、追う者の鉄則である“攻めの走り”をさせられず、入りの3キロは9分07秒。この時点で1分以上の差がついてしまい、大勢が決まってしまった。
「東洋大の復路を走る選手の力はあなどれないから、追いつかれたら絶対に負けると思っていた」という早大・渡辺監督は、各区間とも細かい指示を出して、その差が縮まるのを最小限に抑えた。対して東洋大は、8、9、10区で区間賞を獲りながらも、もうひとつ爆発的な走りをすることができず、10区では一時20秒を切る差まで追い詰めたものの、早大の逃げきりを許してしまった。

 早大アンカーの中島は「怖かった」と言い、渡辺監督も「さすがの東洋大。簡単には勝たせてもらえなかった。10区の20キロ通過で10秒以上の差があれば勝てると思っていたから、そこでやっと勝利を確信した」と笑顔を見せた。

■4年生の走りが勝負の分かれ目 早大の勝利は決戦への序章
 終わってみれば、気象条件に恵まれた往路では2位の早大まで往路新記録で、総合タイムも早大が新コースで初めて11時間を切る10時間59分51秒での優勝。ますますのスピード化を印象づける結果だった。

 早大と東洋大の21秒差の壮烈な戦い。その差はともに120パーセントの力を出した早大の猪俣と高野、80~100パーセントしか出せなかった東洋大の大津翔と千葉という4年生のパフォーマンスの差だったとも言える。
 早大・渡辺監督はその勝因を、「駅伝はチーム力の戦い。アクシデントで4年生中心のチームになったのが逆に良かった」と言う。

 来年は矢沢、三田、八木勇樹というスピードランナーたちが4年生になる早大に対し、東洋大も柏原と田中貴章を含め、今回走った10人のうちの5人が4年生になる。
 その時の戦いこそ本当の意味での総力戦となるだろう。もしかすると今回の戦いは、早大と東洋大の最大の決戦へ向けた、序章だったのかもしれない。
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