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不思議の国ニッポンが、好かれる理由

ドイツ人は日本に対し、どのようなイメージを抱いているのだろうか。伝統文化を重んじる一方で、先端技術を誇るハイテクの国。また最近ではサブカルチャーの発信地としても注目を集めているようだ。

 ドイツ人が持つ日本のイメージをひとことで書くならば「不思議の国」――。伝統を重んじ、武道や華道といった哲学に通じる文化を大切にする一方、先端技術を誇るハイテクの国であり、最近はサブカルチャーの発信地としても注目を集めている。日本に限らずどの国も多様な表情を持つものだが、ドイツ人が先進国と呼ばれる国々を思い描くとき日本の多面性は際立って映るらしい。

 海外に住むと何かにつけて自国のことを説明する機会を持つ。また周囲の人は身近な日本人を通して日本を想像するから、海外在住者はちょっとした“民間親善大使”の役も務めることになる。どのようにして日本を紹介すればいいのか苦労は尽きないが、ちょうど1週間ほど前にテレビチャンネル「3sat(ドライザット)」が日本ウィークと題して20本ほどの日本関連番組を放送していた。ドキュメンタリーや座談会、映画などの番組を通して、ドイツにおいて日本がどのようにとらえられているかをレポートする。

日本ウィーク

 番組のタイトルと見出しは以下の通り。これだけの数を集めるとドイツ人が日本に寄せる関心の方向性が見えてくる。


1月18日(月曜日)
◾「世界の宝――日本の文化遺産」厳島/京都/広島(ドキュメント、再放送)
◾「日本――髪が支える奇跡の経済成長」少子高齢化に直面する日本。しかしシルバー世代は経済成長のチャンスでもある……(ドキュメント)
◾「ハイテク:大量輸送」東京の鉄道システム(ドキュメント、再放送)
◾「坂本龍一――万能のミュージシャン」(座談会)

1月19日(火曜日)
◾「侍の刀」(ドキュメント、再放送)
◾「日本――マラソン修行僧・京都」天台宗・千日回峰行(ドキュメント、再放送)
◾「殯(もがり)の森」2007年カンヌ国際映画祭、審査員特別グランプリ受賞作品(映画)

1月20日(水曜日)
◾「クリル諸島(千島列島)の男たち」ロシアと日本の漁師(ドキュメント、再放送)
◾「会社のための死」日本の労働ストレス(ルポルタージュ、再放送)
◾「日本の余暇の過ごし方」(ルポルタージュ、再放送)
◾「リング(オリジナル)」(映画、1988年)

1月21日(木曜日)
◾「芸者とゲームボーイ」(ドキュメント、再放送)
◾「日本・落陽の国?」(座談会)
◾「「隠し剣」(映画、2004年)

1月22日(金曜日)
◾「神風特攻隊――死の命令」(ドキュメント、再放送)
◾「日本――経済マガジン」(座談会)
◾「地獄の囚人」太平洋戦争 泰緬鉄道(たいめんてつどう、映画)

1月23日(土曜日)

ファイヤー・レディー 女性花火師(ルポルタージュ、再放送)

1月24日(日曜日)
◾「シュトゥットガルトシンフォニーオーケストラ」2008年東京公演
◾「常に前進 バイオリニスト みどり」(ドキュメント、再放送)
◾「ハーモニーの宿――京都俵屋旅館」(ドキュメント、再放送)
◾「日本の荒くれ牝馬」女子プロレス・トレーニング
◾「村上隆」(ルポルタージュ、再放送)
◾「極東の美食マニア」(ドキュメント、再放送)
◾「地獄谷の温泉猿」(ドキュメント、再放送)

 すべての番組が今回のために制作されたわけではなく10年前の古いルポルタージュも含まれるが、これほどまとまった数の日本関連番組が一挙に放送されたのは初めてではないだろうか。番組を制作したドイツ人の視点と日本人の視点は異なっており、だからこそドイツに住む日本人が見ても新しい発見がある。

 水曜日に放送された「会社のための死」は2000年に制作されたルポルタージュだが、通勤時間を節約するためカプセルホテルに寝泊りする会社員の話や、「全国の自殺者が1日100人を超す」など、ドイツ社会とかけ離れた日本の実態が紹介されている。ドイツの労働者もインフレによる賃金の目減りに直面しリストラの不安を抱えているのだが、ストレスの切迫度が違うようだ。日本に存在する多くの社会問題はドイツにも存在するのだが、困窮者を死に追い詰めず救い上げるセーフティーネットはドイツの方が優れている。その差が大きい。

 同じく水曜日の「クリル諸島(千島列島)の男たち」は北方領土海域で生計を立てる日本人とロシア人の漁師の話。ロシアの漁船が密漁して日本の漁港で荷揚げする様子が生々しく映され、ロシア人漁師からは「ロシアの沿岸警備隊に見逃してもらうためワイロを払わなければならない……」などの内情も語られていた。日本にとってはナイーブな問題でもドイツ人は客観的に報じることができる。日本ではあまり放送されない北方領土のロシア人の生活や、岬に街宣車を停めて活動する右翼団体の話など、タブーに縛られない番組作りがされていた。

「~道」

 ドイツ人には、エキゾチックな日本の精神世界を垣間見ることができる番組も人気だ。筆者の知人が特に興味を持ったのは火曜日の「日本――マラソン修行僧・京都」。白装束をまとい7年間の修行を続ける僧のストイックな姿が印象的だったという。

 宗教ではないが、ドイツ人の多くが日本の「~道」に強い関心を抱いている。弓道、柔道、合気道などの武道はすでに広く知られており、私が住む街でも「BUDO Club(武道クラブ)」の師範を務めるのはドイツ人。西洋発祥のスポーツにはない精神修養の考え方や、礼儀を大切にする姿勢、記録更新よりも自分自身を磨き高めることに重きを置く考え方に共感するようだ。

 ちょっと変わったところでは「忍術」の愛好者もいる。「NINJA」はアクション映画などを通して世界中でお馴染みだが、そのイメージは垂直の壁を駆け上ったり空を飛んだり、スーパーマンのような超人であろう。筆者の知人(ドイツ人)は忍術の道場を運営するほど熱心な男だが、本物の忍者は荒唐無稽(むけい)なアクションヒーローではなく、地道に修行を積む実践的な人間であると説明してくれた。

 武道だけでなく華道、茶道、書道の人気も高い。よく街のカルチャースクールにコースが開設され、日本文化を知りたい人や、教養のひとつとして習い始める人が多い。どちらかといって男性より女性の方が興味を持つようだ。

日本は別格

 日本がドイツにとって遠い国であることは確かだ。距離の隔たりだけでなく、言葉、文化、歴史、宗教でも共通項は限られる。両国に通じるのは第二次世界大戦で負けながら急速な経済成長を遂げ、共に先進国となった点であろう。(ただし、第二次世界大戦で同盟を組んだからという理由で日本に親近感を抱くという話は聞かない)

 率直な書き方をすればアジア諸国を差別するドイツ人はまだまだ存在するのだが、そんな中でも日本は別格の扱いを受けている。その理由のひとつが「日本人の質」である。ドイツに住む日本人の多くはビジネスパーソン、学生、研究者など、まがりなりにも教養と社会常識を備えており、犯罪や深刻な社会問題を犯す割合は他国と比べて極めて低い。滞在許可を得る際やパスポートのチェックなど日本人だから簡単に済む場合が結構あり、海外在住者には理屈抜きでありがたい。

 もし日本から政治難民や経済難民が流入するのであれば話は全く別だ。難民であろうとなかろうと人間の尊厳に違いはないのだが、現実問題として難民の多い国にリスペクトを持つのはなかなか難しい。この点、日独関係は幸運だと言える。

 限られた情報を基に日本を好きになる「親日家」は、ちょっとしたきっかけで感情の針が逆に振れ「嫌日家」に変身することがある。これに対し日本のいい面も悪い面も知ったその上で日本を好きになる「知日家」の場合は、そういう気持ちのブレが少ない。ありがたいことに、知日家のドイツ人は着実に増えている。
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