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単行本不振…小説、いきなり「文庫」が主戦場

 ■旧作を早めに

 出版不況下で文芸書の単行本の売れ行きが伸び悩む中、出版各社が文庫の充実に力を入れている。既刊作品が文庫化されるスピードが速まり、単行本を経ずに新作を「いきなり」投入するスタイルも広がる。低価格と優れた携帯性が読者に支持されており「小説の主戦場」と化している。(海老沢類)

 「仕掛けが早く、本気度が伝わってきた」。東京都内の書店員がそう話すのは、28日から3カ月連続で文庫版が刊行される村上春樹さんの長編小説『1Q84』の宣伝手法だ。出版元の新潮社は、1月初旬に自社サイトで早々と文庫化を予告。4月2日からは山手線などJR東日本の電車内でも15秒の宣伝映像を流す。

 単行本は3巻合計で約386万部のミリオンセラー。文庫の第1巻は、事前増刷がかかり前後編各45万部で売り出される。江木裕計(ひろかず)新潮文庫編集部長は「単行本の価格では手が伸びなかった若い読者を取り込みたい」と話す。

 ■売り方は「新作」

 講談社は5月に文庫化される川上未映子さんの長編小説『ヘヴン』のために、川上さんの撮り下ろし写真を配した宣伝ポスターを作成中だ。5月の大型連休前に全国2500書店に張り出す。3年前に単行本が出た“旧作”としては異例の仕掛けだが、昨年の販売額が前年比105%という講談社文庫全体の実績も背中を押す。国兼秀二文庫出版部長は「書店で文庫の棚に直行するお客さんにとっては文庫の新刊が新刊。もう、これは(新作の)単行本の売り方ですよね」と話す。

 ■わずか1年で…

 出版科学研究所(東京)によると、平成22年の文庫の販売金額は1309億円で、ピーク(10年)から約5%減った。ただ単行本などを含めた書籍全体はピーク時から約25%も落ち込んでおり、「文庫の健闘ぶりは際立っている」(同研究所)。今年の本屋大賞候補に入った『ビブリア古書堂の事件手帖』(メディアワークス文庫)など“文庫発”のヒット作も珍しくない。このため「面白いものは元気な文庫市場にどんどん出していく」(講談社の国兼さん)という認識が広がり、単行本が出てから3年をめどに文庫に収めるという出版界の慣例も崩れてきた。

 集英社は3月、安田依央(いお)さんの小説すばる新人賞受賞作『たぶらかし』を単行本発売から約1年1カ月で文庫化。「4月に映像化が控えているため」だが、鮮度が落ちやすいノンフィクションを除けば、異例の早さといえる。

 ベテラン作家も例外ではない。講談社は3月に伊集院静さんの長編『お父やんとオジさん』を約1年9カ月で、昨年10月には五木寛之さんの長編『親鸞』を約1年10カ月で、それぞれ文庫化している。

 ■ロゴで積極PR

 こうした“前倒し”を推し進めた書き下ろしや、雑誌連載などを単行本を経ずに出す「いきなり文庫」と呼ばれる手法も浸透してきた。集英社文庫から1月に刊行された東野圭吾さんの短編集『歪笑(わいしょう)小説』は昨年11月までに小説誌に掲載された作品を収めた「いきなり文庫」だ。瀧川修編集長は「『早く、より多くの読者に』という著者の意向もあった。雑誌掲載の直後という新鮮さもあって読者の反応はいい」と話す。同文庫は「いきなり文庫」を創刊35年の目玉と位置づけ、ロゴマークも作成。毎月数点ずつ出していくという。

 1冊ごとの単価が低い文庫からのスタートに抵抗感を抱く作家もいる。ただ、ある出版社の編集者は「単行本で実績を残せず最終形態の文庫に到達できない作品は数多い。比較的刷り部数の多い文庫で最初に読者に届けるのは作家にとっても悪いチャレンジではない」と指摘する。

 文庫で刊行された東野さんの『白銀ジャック』(実業之日本社文庫)が昨年11月に単行本として発売されるなど、慣例とは逆の順序を踏む例も出てきた。

 出版ニュース社の清田義昭代表は「文庫はフォーマット(判型)が決まった定期刊行物で、出版社にとっては安く早く出せて書店の棚も確保しやすい利点がある。ただ、多様化を図る場合は『すでに定評のある作品ぞろい』という読者の期待を損なわない微妙なさじ加減が必要だろう」と話している。
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